ラム酒の原料が「さとうきび」だということは、前回の記事でお話ししました。しかし、我が国にもさとうきびを原料とするおいしいお酒があるではないですか! そう、黒糖焼酎です。共に原料はさとうきびで、蒸留酒。その違いは一体なんなのか? ひも解いていきましょう。
さとうきび、酵母、もうひとつ?
じつはさとうきび以外にも、黒糖焼酎を黒糖焼酎たらしめる重要な原材料があるんです。それが、米麹。黒糖焼酎づくりは、まず水、酵母、そして米麹を混ぜ合わせる一次仕込みから始まります。ここに、黒糖を少量のお湯で溶いたものを加えるのが二次仕込み。対して一般的なラムづくりでは、さとうきびから砂糖を生成したあとに残る「糖蜜」に、酵母だけをプラス。このあとはどちらも蒸留工程になるのですが、原料における「米麹の有無」。これが黒糖焼酎とラム酒を分けている決定的な違いです。
いも焼酎には必要不可欠
では、なぜ黒糖焼酎では米麹を使うのでしょうか? そもそもアルコールは、糖分を含む食品が発酵する過程で生まれます。さつまいもを原料とする芋焼酎を例にとると、そのでんぷん質を糖分に変えるために米麹が必須。米麹のおかげでいものでんぷんが糖に変化し、それが発酵して晴れてお酒となるわけです。しかし黒糖は、そもそもが糖分。米麹の力を借りずとも酵母さえあればアルコール発酵が可能なわけですが、その背景には奄美諸島を取り巻く歴史があったのです。
スピリッツか、焼酎か
1953年、それまでアメリカの占領下にあった奄美諸島はようやく日本へと返還されました。もともとさとうきび栽培が盛んだったこの島々では、さとうきびを原料とするお酒の製造していましたが、当時の製法はラム酒とほぼ同じものでした。ここで問題になってきたのが酒税法。この法律では、それぞれのお酒の種類によって課される税率が変わりますが、従来の奄美の酒づくりにのっとると、ラムをはじめとする「スピリッツ」のカテゴリーに分類されてしまい、税率が高くなってしまったのです。そこで、米麹を使用するなどの条件をクリアすれば、税率の安い「焼酎」カテゴリーとして認められることに。こうしていま私たちが飲んでいる黒糖焼酎が誕生したというわけです。
現在、黒糖焼酎を製造しているのは奄美群島内の限られた蔵元のみ。南国の風が香るその味を、同じく南国ハワイで生まれたラムと飲み比べ。そんな楽しみ方もまた一興です。