「最初にコーヒーにフレーバーが加えられたのは、ランクの低い豆の味をごまかすためだったんだ」
オアフ島でコーヒーロースターとして活躍するアルフレッド・コッシーナの言葉は、ちょっと衝撃的でした。いまでは缶コーヒーに使われることも多い安価なロブスタ種などの豆に、バニラやヘーゼルナッツの香りをプラス。これをいわゆる「フレーバーコーヒー」として売り出すのではなく、あくまで一般的なレギュラーコーヒーとして販売していたといいます。
「とがった苦味を覆い隠すために甘いフレーバーを用いた、そんな具合だよ」
いまでもバニラやヘーゼルナッツがフレーバー業界で幅を利かせているのは、こういったヒストリーも関係しているのだとアルフレッドは言います。
起源はソーダシロップ
そもそもフレーバー、シロップの文化はヨーロッパが起源。大手メーカーTORANI(トラニ)は、実に1920年の創業です。このシロップを炭酸水で割って楽しむ。これがフレーバーコーヒーが登場するだいぶ以前からのフレーバーの楽しみ方だったといいます。ハワイでフレーバーコーヒーが製造されるようになったのは70年代。アルフレッドは83年、それまで製造を手掛けていたメーカーを買い取る形で、フレーバーコーヒーづくりを始めました。
「知識がなかったからね、最初はフレーバーメーカーに通って教えてもらったものだよ」
当時を振り返るように、アルフレッドは静かにそう話します。
良い素材があってこそ
アルフレッドのフレーバーコーヒーは、ほかのどんなメーカーのものとも異なります。攻撃的な強いフレーバーではなくほのかに香り、そしてきちんとコーヒーの旨みも感じます。
「うちではジャンクな豆は一切使わないよ。多少コストはかさむけど、そのほうが絶対においしい。だったらおいしいほうを選ぶよね。中米の豆を中心に、そのフレーバーに合うものをしっかりとブレンドしているよ」
その起源、くず豆の弱点をごまかすため、というスタンスとはまるで違います。豆自体の焙煎にも気を配り、浅煎りから中煎りで仕上げるとのこと。
「深煎りにすると豆の味が強くなってしまうから、フレーバーとうまくマッチしないんだ」
焙煎士としての技術と、長年の経験で培ったフレーバーを操るスキル。このふたつがあるからこそ、アルフレッドのフレーバーコーヒーは唯一無二なのです。