真紅の衣装。ククイナッツと緑の葉の首飾り。四肢には神聖な意味が込められたタトゥーが刻まれている。神に選ばれ、自然の叡智を学んだハワイの司祭「カフー」。その日、彼の姿は鹿児島の焼酎蔵・神酒造にあった。
右手には魔除として用いられる大きな葉「ティリーフ」を持ち、左手にはシダ植物が敷かれたカゴ。恭しく薄紫色のタロイモが乗っている。
神に祈りを捧げ、タロイモ焼酎造りの無事を祈る儀式が、静寂な春の午後、厳かに執り行われた。ハワイから訪れた大勢の取材スタッフも、その様子にカメラを向ける。
タロイモは、ハワイにおいて最も神聖な食物。神話では人類の祖の”兄弟”として言い伝えられている。酒造りにおいて、神様に許しを得ることが「道理」と考えたのは、タロイモの生産と流通を担う”TARO BRAND”のクレイグ氏。
神聖で特別な食物を、他国に出荷して酒にするということに必ずしも、神と、全てのハワイ人が寛容とも限らない。「だからこそ、ハワイの人々に、そして神様に対するリスペクトが必要」。
その真摯さが、この日の祈りを実現させた。
大きな葉を時折空に振り上げながら、カフーの太い祈りの声が蔵の厚い石壁に反響する。私たちも蔵人も、初めて目にするその厳かな儀式を、固唾を飲んで見守る。
一連の儀式を終えた後、カフーは一人、蔵の奥に祀られた碑にも丁寧な祈りを捧げていた。
ちなみに芋焼酎の本場・鹿児島では、焼酎が御神酒(おみき)として奉納されることも多いそうだ。
国と文化を超えた神への祈りが、この酒に込めらた特別な1日。私はそう思った。
鹿児島の夜は、皆でテーブルを囲んだ。カフーも、愉快そうにタロイモ焼酎を呑みながら言った。
「Very nice.・・・オイシイネ。」
美味い酒と九州料理が、一層美味く感じる、特別な夜だった。