オアフ島カフクで「シーアスパラガス」という自然由来の塩気をもつ野菜を海水で水耕栽培しているウェンハオ・サン博士。前回から彼の半生をご紹介しています。
植物の力で環境浄化
お目当ての教授、タン先生のもとで研究がしたくて中国からハワイに移住したのに、なかなか研究室に入る機会に恵まれないウェンハオ。しかしようやく転機が訪れます。
「タン先生が、『ファイトレメディエーション』のプロジェクトに参加することになった。これはまさに僕の専門分野だったんだよ」
「ファイトレメディエーション」とは、植物の力を利用して水や空気、土壌などの汚染物質を分解する技術。ウェンハオが上海にいたころ手掛けていたヒヤシンスの水耕栽培で水中の藻の発生を抑制する研究は、ファイトレメディエーションにも関連するものでした。
海水水耕栽培へのヒント
タン教授とウェンハオが参加することになったプロジェクト。これはアメリカ農務省からのミッションで、海岸土壌のディーゼル汚染を植物の力で改善しよう、というものでした。
「残念ながら、プロジェクト期間内に植物を使ってディーゼルを完全に分解できる、という結論を導き出すことはできなかった。けど、この取り組みを通してかなりの塩分濃度の土壌でも育つ植物を複数発見した。だからきっと、直接海水の水耕栽培でも育つものもあるに違いないと、僕は確信したんだ」
海水による水耕栽培のアイデアが、ウェンハオに降りてきた瞬間でした。
水耕栽培が農業の未来を救う?
そこから海水水耕栽培の実験を始めたウェンハオ。食用の野菜についても、「土地が汚染されても、温暖化で土地が減っても、海水で野菜が育てば耕作地の心配をしなくてよくなるんだ。農業の可能性が確実に広がる!」と、熱が入るようになりました。その味わいの良さからシーアスパラガス栽培に力を入れるようになり、地元のレストランやスーパーマーケットを中心に、ロコのお気に入りとなっていったのです。
それは苦労か、わくわくか
「僕にとっては、パッションが一番大切。多くの人は『ビジネス=お金』って考えるけど、僕はビジネスマンじゃない。自分が研究して、自分が作り出すものは赤ん坊のようなもの。世話し続けるしかないよね」
だからいつも資金繰りには苦労するんだけど、と笑うウェンハオ。でも彼が歩んできた道のりは、苦労というよりかはむしろ感動とわくわくで満ちているように見えるのでした。